小林裕三 (農学)


習うより慣れろ!

小林裕三(農学、社団法人国際農林業協働協会(JAICAF) 業務グループ調査役)

私が青年海外協力隊(JOCV)に参加した動機は「野生の王国をこの目で見てみたい」という、いたって単純なものでしたが、残念ながら派遣された国、セネガルではそのような体験はできませんでした(苦笑)。このセネガルという国は西アフリカ最西端に位置し、仏語圏アフリカでは中心的役割を担う国で、同国で過ごした2年半の経験がその後の仕事を運命づけました。

中央が筆者(ブルキナファソにて)

セネガルから帰国した私はAICAF:社団法人国際農林業協力協会(現JAICAF:社団法人国際農林業協働協会)に就職し、ニジェールを皮切り に、これまでタンザニア、ナイジェリア、ケニア、コートジボワール、ベナン、ギニア、マリ、セネガル、エチオピア、ブルキナファソといったサブサハラ・ア フリカ諸国を中心に、農林水産省や外務省からの助成や委託を受け、あるいは独立行政法人国際協力機構(JICA)からの業務を受注して、これら諸国の食料・農業・農村開発に係る基礎的調査・研究事業や技術協力に携わってきました。

さらにJICAの業務では、象牙海岸灌漑稲作機械訓練計画の長期派遣専門家(業務調整/研修計画)としてコートジボワールに赴任(1995-1997年)しましたが、同業務に就くことができたのも、JOCV隊員としてセネガルで培った経験と語学力を買われたものでした。そのお陰もあって、アフリカの稲作研究の中心的存在であるWARDA(現Africa Rice Center)やWFPといった国際機関との交流を持つことができました。とくに、当時WARDAの育種部長であったNERICA開発者のDr. Monty Jonesと知り合い、彼との交流によって人脈、コネクションを広げることができたことは、公私ともに有益であったと思っています。

皆さんもご承知の通り、ガーナやタンザニア、ケニアといった英語圏の業務に参加できる人材の底辺は非常に広いので、「正直自分でなくてもいい仕事」と思うこともしばしばありましたが、こと仏語圏の仕事においては「自分でなくて誰が行く」というぐらいの自信を持ってやってきました。それぐらい人材の不足している言語圏なのです。英語が堪能であれば多くの国で活躍することが可能でしょうが、自分の色を出せないと埋もれてしまう恐れもあります。その点、フランス語圏で活躍できる人材は少なく、英語が達者であっても現地で英語堪能者を見つけることは困難なので、自分がフランス語ができてよかったと思うことがしばしばありました。

フランス語圏(アフリカを中心に約30ヵ国)はスペイン語圏(中南米中心に約20ヵ国)より国の数が多く、活躍できる現場も多く存在します。

ただし、言葉は習うものではなく、慣れるものであると私は思います。言語学習というと「読んで、聞いて、書いて」の繰り返しと思う人もまだまだ多いようですが、言葉は使わないと覚えないし、また忘れるものです。フランス語も話者の中でたくさん揉まれて、たくさん恥をかいて生活の中で覚えるものであると、セネガルで経験しました。まったく個人的な見解ですが、皆さんのご参考となれば幸甚です。

 

小林裕三(こばやし ゆうぞう)
農学、環境共生学
1986年3月、東京農業大学農学部農業拓殖学科卒業。
1987年1月〜1989年7月、青年海外協力隊(JOCV)隊員として西アフリカのセネガルへ赴任(野菜栽培)。
1990年10月、社団法人国際農林業協力協会(AICAF, 現JAICAF)職員採用。
現在は社団法人国際農林業協働協会(JAICAF)業務グループ調査役。
研究論文「乾燥地農業における作物残渣の土壌被覆利用に関する基礎的研究」によって東京農業大学大学院より博士号(環境共生学)を取得(第606号、2011年3月)。
Website: http://www.jaicaf.or.jp/