フランス語で数学を

川平友規(数学、名古屋大学大学院多元数理科学研究科准教授)(元の記事はこちら

科学の世界でもっとも幅をきかせている言語は、間違いなく英語です。したがってどんなに語学が嫌いでも、これを読み書きし、話さないと、ロクにインプットもアウトプットもできない、というのが普通であります。

ところが私の専門とする数学の世界には、例外ともいえる国があるのです。それがフランス。フランスの数学者には、フランス語のみで最先端の理論を吸収し、研究し、フランス語で発表する、そういうことが、現実的な選択肢として残っているのです。

実際、フランス語で書かれた論文を目にする機会は比較的多い。世に出る論文全体に占める割合はおそらくほんの数%で、英語優位は否定できませんが、かつて対等以上のプレゼンスを誇ったドイツ語やロシア語の論文が現在皆無であることを考えると、フランス(語)の特殊性は驚くべきことです。じつはこの国、デカルトやパスカルの時代から現在まで、超一流の数学者を量産しつづける数学大国なのであります。

こうした優秀な数学者のフランス語論文が重要な文献となり、われわれ日本人研究者も「読まざるをえない」状況になることもしばしばです。学部や修士の学生がフランス語の文献を辞書を引き引き読む、というのもよくある光景で、私もそんな学生のひとりでした。

フランス語の論文を読む、というとえらく難しそうですが、じつは専門性の高い文献ほど、読むのが楽になるのです。そもそもフランス語と英語は逐語対応が良いうえに、使われる専門用語がより限定されるからです。もちろん若干の文法知識はほしいところで、私の場合、第二外国語としてフランス語を学んでいたのがたいへん役に立ちました。(フランス語の意味はわかっても、書かれた数学の内容が難しくて理解できない、なんてこともよくありましたが…。)

ちなみに私がフランス語を学ぶとき、英語との比較対応を心がけた瞬間から、急に上達が早まりました。同じようなルール(文法)のゲームを、ちょっと違う道具(単語)でやっているのだ、と気づいたのです。これまでの英語学習が、じつはフランス語の基礎訓練になっていたのですね。

まあ勉強法はさておき、フランス語を通して私が得たものは、数学の知識だけではない、衣食住を楽しむ豊かな人生観、それにすばらしい友人たちであったことを申し添えておきます。

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