フランス語のすすめ

石井三記先生(法学、名古屋大学大学院法学研究科教授)(元の記事はこちら

一般的に言って、大学の新入生が大学に入ったと実感できることのひとつに、新しい外国語との出会いがあるのではないかと思います。これから名大に入学するみなさんには、ぜひフランス語にも触れていただきたく、この文章をパリで書いています。

名古屋大学には大学間の学術交流協定のほかに、学部間協定もあり、名古屋大学法学部はパリ第2大学と数年前から交流協定を結んでいます。パリ第2大学は、伝統的に法学部のトップクラスに位置しておりまして、その校舎の中には、日本近代法の父と呼ばれるボアソナードの銅像があります。かれはパリ 大学法学部教授でしたが、明治政府の熱心な要請で明治6年に来日し、近代法制の礎となる法典編纂や法学教育に力をつくしてくれた人物です。

ところで、なぜフランスから、だったのでしょうか。それは明治初期の日本が近代化=西洋化を進めるさいのお手本は、法律の領域では、フランスだった からです。イギリスは判例法の国で法典がなく、その制度を日本に移すのはむずかしく、ドイツで民法典が施行されるのは日本よりも遅く1900年です。ナポ レオン法典はその約1世紀前にできていてヨーロッパのみならず世界中に影響をあたえていましたから、この選択は自明のことでした。

たとえば、大学で法律を学ぶときに『六法』という書物が必要になってきますね。このような書物の源流をさぐると1810年代のフランスで出されるよ うになる『五法典』に行き着きます。また、現在の日本の法律用語はフランスから取り入れられたものが多数あります。一例をあげると、「時効」ということば は、今では日常会話でもふつうに使われていますが、これはボアソナードの説明を受けて明治期に日本語にされたものだったのです。今日的な法制度の観点から もフランスは重要です。日本で2009年から裁判員制度がはじまりました。この制度をつくるときにもフランスの重罪陪審制度が参考にされたのです。

冒頭に申し上げましたように、名古屋大学法学部はパリ第2大学との交流協定を結んでいます。名大法学部が毎年おこなっている学生の海外実地研修は 2008年3月、パリでおこなわれました。名古屋とパリの学生が移民問題、死刑制度問題などを討論し(討論はフランス語や英語で行われました)、また、フ ランスの最高裁判所にあたる破棄院および国務院(行政裁判所の最高裁に相当)、憲法院、商事裁判所、パリ弁護士会、パリ警視庁博物館等を訪問し、さらに陪 審裁判の傍聴もしてきました。日本にはない、あるいは、日本とちがう制度を知ることで、自分の国のことがよくわかるということがあります。これは外国語の 勉強にも共通することかもしれません。みなさんがフランスの言語、社会、文化、制度などに関心をもたれることを願っています。(2012年8月、パリに て)

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