フランス語学習を通じて視野を広げる
夏目達也(教育学、名古屋大学高等教育研究センター教授)
自分の視野を広げる-フランス語の学習を学生のみなさんにお勧めする理由の一つはこれです。
国際会議で使用言語としてフランス語が認められている場合でも、最近は英語の勢力が優勢です。学術研究でも、英語で書かれた論文の数が圧倒的に多いようです。さらに、かつては英語がまるで通じない国でも、最近はそれほど深い内容でない限り、普通に英語で用事が足りるようになっています。だから、英語をきちんと使いこなせれば、ことは足りるように思われます。しかし、実際にはそれでは不十分です。
ある国の事象について調査する場合、表面的な知識を得るだけならばともかく、一歩掘り下げて、その背景や思想について知ろうとすれば、やはり英語だけでは無理で、その国の言語が必要になります。情報の発信者が英語に堪能でない場合がありますし、そもそも英語での発信の必要性を感じるとは限らないからです。ものごとを正確に、深く知ろうとする場合には、その国の言語に頼らざるを得ません。フランスでは、そのことがとくにあてはまるようです。
私はフランスの教育について研究していますが、高等教育でも職業教育でも、フランスはアングロサクソン諸国とは異なる起源・歴史をもち、独特の展開を示しています。ヨーロッパ諸国間で協調が図られている現在でも、そのことは基本的に変化していません。教育を支える思想が異なるからです。もちろん、ドイツ語をはじめとする言語を用いる国・地域とも異なります。
フランスの教育について英語で書かれた著作も少なくなく、関連情報が英語で発信される場合もあります。しかし、そこに示される情報の質と量はとても十分とはいえません。やはり、フランス語文献にあたったり、フランス語を用いての現地調査が不可欠です。
フランス語圏はヨーロッパだけでなくアフリカ等にもあります。これらの地域に、フランスの思想・制度が影響を与え、フランス国内とはことなる展開をみせている場合もあります。これらの地域の調査ではフランス語が利用できるため便利です。
フランスに限らず、他国の制度や思想について学ぶことは、ものごとの多面性を知り、自分の知見を広げることにつながります。それがやがて自分の多様な可能性を広げることにもつながるのではないでしょうか。
夏目達也(なつめ たつや)
専門 : 高等教育論、職業教育論
1955年生まれ。名古屋大学教育学研究科博士課程後期課程満期退学。
文部省大臣官房調査統計企画課専門職員(1990-96年)、北海道教育大学助教授(1996-99年)、東北大学アドミッションセンター教授(1999-2004年)を経て、2004年4月から名古屋大学高等教育研究センター教授。
書籍等 : “The Possibilities for Mutual/Collegial Faculty Development Model and Networking”, Buiding Networks in Higher Education, Maruzen Planet, 2011 ; 「FDモデルとしての相互研修型・同僚モデル」京都大学高等教育研究開発推進センター『大学教育のネットワークを創る』、東信堂、2011年3月 ; 『大学教員準備講座』、玉川大学出版部、2010年3月(近田政博、中井俊樹、齋藤芳子と共著) ; 「オーストラリアの大学におけるAcademic Developmentとネットワーク」「おわりに-わが国への示唆」、東北大学高等教育開発推進センター編『ファカルティ・ディベロップメントを超えて』東北大学出版会、2009年