川島慶子 (科学史)

フランス語は役に立つか?

  川島慶子
  (科学史、名古屋工業大学准教授)

フランス語は役に立つか?これはまあ、いろいろ議論の分かれるところだと思う。「第二外国語を選ぶなら、いまや中国語や韓国語、スペイン語の方が役に立つ」という意見をよく聞くが、それも間違いではない。

けれど、フランス語はやっぱりそれなりに役に立つ。どんな分野で?ファッション、アート、グルメなんかで役に立つということは誰にでもわかると思う。しかしもっと切迫した問題でも役に立つ。実は3.11のあと、フクシマの原発が危なくなった時、私にはフランス語が役に立った。

というのも、「放射能の発見」で1903年にノーベル賞をもらったのはフランス在住の3人の科学者で、その内一人はかのキュリー夫人である。キュリー夫妻の娘夫婦も人工放射能の発見でノーベル賞をもらっている。この伝統から、フランスには放射能のエキスパートが多いのだ。原発大国であるのも事実。なので、あの時フランスのサイトの情報はとても役に立った。日本のサイトではあまりにも色々な情報があふれていて、どうしていいかわからなかったが、フランスの方は「第三者かつ原子力の専門家」という立場からの発言が多く、頭が冷静になれた。あの時、フランスのサルコジ大統領(当時)が真っ先に日本に来たのも、上記の歴史的事情が関係している。

というかんじで、科学技術についてもフランス語は役に立つ。「1年で身につく」かどうかはみなさんの努力次第だけれど(私はサボリだったので無理でした・・・)、チャレンジする価値はあると思いますよ。ではBon courage!

 

* 写真はルーヴル美術館前の筆者

 川島慶子(かわしま けいこ)
1959
年神戸市生まれ。京都大学理学部地球物理学科卒業。東京大学大学院理学系研究科(科学史・科学基礎論専攻)博士課程単位取得退学。1989年より2年間、パリの高等社会科学学院留学(DEA取得)。19924月より名古屋工業大学講師。同助教授を経て20074月より同准教授。
専門は科学史。特に、
18世紀を中心とするフランスの科学史を、ジェンダーの視点も取り入れつつ研究している。著書に『エミリー・デュ・シャトレとマリー・ラヴワジエ――18世紀フランスのジェンダーと科学』、東京大学出版会、2005年(女性史青山なを賞受賞)。『マリー・キュリーの挑戦――科学・ジェンダー・戦争――』、トランスビュー社、2010年。201011月、学術研究に与えられる第36回山崎賞を受賞。