2013 年9月30日に名古屋大学で開催された、大島弘子先生 (パリ・ディドロ大学、CEJ) による講演「Common European Framework of Reference for Languages: Leaning, teaching, assessment (CEFR, 外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠) とその語学教育への応用」の資料を先生のご了解の下、公開します。
CEFRは日本では簡略化して「ヨーロッパ言語共通参照枠」とも呼ばれますが、各言語のコミュニケーション能力のレベルを示す国際規格として、世界で幅広く導入されつつあります。フランス教育省の認定するフランス語能力テストであるDELF/DALFとTCFは、現在どちらもCEFR (フランス語ではCECRL) に準拠しています。また、NHKの英語講座の編成も CEFR のレベル分けに対応しています。
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Common European Framework of Reference for Languages
Learning, teaching, assessment (CEFR)
と
その語学教育への応用
パリ・ディドロ大学
東アジア言語文化学部
大島弘子
発表内容
① CEFRの概要
② 欧州評議会とその言語政策
③ CEFRの主要コンセプト
④ 共通参照レベル
⑤ CEFRの難点と外国語教育への応用
時間があれば
⑥ ELP (ヨーロッパ言語ポートフォリオ)
① CEFRの概要
・誰が、何時?
- CEFR は欧州評議会(Council of Europe)、言語政策部局の後援を受けた専門家チームが制定した。
- 1996年に初版、1998年に改訂版が発行され、その後、大規模なフィードバックや議論を経て、現在の形のCEFRが英語版とフランス語版で、2001年に出版された。
・何のために ?
- CEF(R )の目的はヨーロッパの言語教育のシラバス、カリキュラムのガイドライン、試験、教科書、等々の向上のために一般的基盤を与えることである。(吉島・大橋他、2004:1)
・何が書いてあるか?
- 行動中心アプローチに基づく言語学習と言語教育の詳細な分析記述
と
共通参照レベル
・共通参照枠の「共通」の意味は?
- あらゆる言語に共通
- 言語学習、教育に関わるもの皆
- ヨーロッパ内の、国、教育機関、教育レベルの枠を超えて
②欧州評議会(≠欧州連合、EU)
欧州評議会の目標
・人権、議会制民主主義、および法の支配の保護
・加盟国の社会的、法的慣行の規範を確立するためのヨーロッパにおける合意形成
・共通の価値観に基づき、異文化の壁を越えた、ヨーロピアン・アイデンティティの自覚促進
ヨーロッパにおける文化および言語の多様性の受容を確立し、移民や外国人に対する偏見のない寛容な態度を培うことが必要
欧州連合(EU)の概要
欧州評議会の言語教育政策の目的
・複言語主義(plurilingualism)の促進
・言語の多様性(linguistic diversity)の促進
・相互理解の促進
・民主的市民の推進
・社会的結束(social cohesion)の促進
その言語教育政策推進と成果
・言語政策部局(1957)+ヨーロッパ現代語センター(1994、オーストリアのグラーツ)
(1)1971年スイスのルシュリコンで行われたシンポの成果 ⇒ The Threshold Level (van Ek, 1975) として英語の例が出版された
(2)1991年、再びルシュリコンシンポ⇒ 全レベルのヨーロッパ共通フレームワークの開発と個人の言語学習を記録するポートフォリオ作成の提案 ⇒ CEFR誕生の契機
③CEFRとその主要コンセプト
・CEFRとは何か?
CEFRの目的はヨーロッパの言語教育のシラバス、カリキュラムのガイドライン、試験、教科書、等々の向上のために一般的基盤を与えることである。言語学 習者が言語をコミュニケーションのために使用するためには何を学ぶ必要があるか、効果的に行動できるようになるためには、どんな知識と技能を身につければ よいかを総合的に記述するものである。
・そこでは言語がおかれている文化的なコンテクストをも記述の対象とする。
・CEFRは学習者の熟達度のレベルを明示的に記述し、それぞれの学習段階で、また生涯を通して学習進度が測れるように考えてある。
複言語主義(plurilingualism)
・ ≠ uc1多言語主義 (multilingualism)
・多言語主義とは
複数の言語の知識であり、あるいは特定の社会の中で異種の言語が共存していることである。
⇒
単に一つか二つの言語を学習し、それらを相互に無関係のままにして、究極目標として「理想的母語話者」を考える。
複言語主義の考え方
・個人の体験の中で、複数の言語知識やそれぞれの言語に付随する文化が、相互の関係を築き、作用しあう点を重視する
・新しい目的は(理想的母語話者を目指すのではなく)全ての言語能力がその中で何らかの役割を果たすことができるような言語空間を作り出すことである。
⇒
教育機関での言語学習は多様性を持ち、生徒は複言語能力を身につける機会を与えられねばならない
行動中心主義
・言語の使用者と学習者をまず基本的に「社会に行動する者・社会的存在(social agents)」、つまり一定の与えられた条件、特定の環境、また特殊な行動領域の中で、課題(tasks)を遂行・完成することを要求されている社会の成員とみなす。
コミュニカティブ・アプローチとどう違うのか (PUREN 2013)
コミュニカティブ・アプローチ
・1970年代初頭
・ヨーロッパの国と国との移動を容易にする政策の中で成立
・基礎となる社会状況は、観光旅行(一時的接触)
・基礎行動は、情報交換のための言語インタラクション(外国人と話す)
・機動性、一回性、完結性、個人性
・あるコミュニケーションの場面
・教室は将来への準備の場→シュミレーション
・コミュニケーション能力
・異文化
行動主義的アプローチ
・現在
・ヨーロッパの統合進展の中で成立(多様性の中の統合)
・恒常的に外国人と生活をしたり、働いたりする
・Co-action (共に行動する、協働)
・反復性、持続性、非完結性、集団性
・ある行動
・教室自体がミクロ社会→プロジェクト
・情報処理能力
・協文化(co-culturel)
④共通参照レベル
・CEF日本語版の28-29(配布資料)を参考
・六段階能力記述(例示的な測定尺度表)
・Can-do 能力記述
⑤ CEFRの難点と外国語教育への応用
・CEFRの問題点
- 読みにくい(解説本が必要)。
- あくまで指針であって、各言語、各国各地域、あるいは各機関の状況に合わせて取り入れていくことが必要 ⇒ uc1文脈化
CEFRの外国語教育への応用
・授業レベル、試験のレベル、到達目標などがCEFRで表記されるようになった。(NHKのラジオテキストも)
・CEFRレベルごとのデータベースのような記述書が出版。
(例) フランス語Un référentiel : Niveau pour le français. B2(2004), A1(2007), A2(2008), B1(2011)
・国際交流基金が、CEFRを参照にして「JF日本語教育スタンダード」を発表(2010)
・ フランスのグルノーブル大学とベルギーのカトリック・ルーヴァン大学は国際交流基金の「日本語普及活動助成プログラム」を受けて2010年度より「CEFR B1 言語活動・能力を考えるプロジェクト」を進行中。
http://japanologie.arts.kuleuven.be/node/8566/
文脈化の段階
Ⅰ CEFRをもとに全言語共通カリキュラム作成
Ⅱ 各言語カリキュラム作成
タスク(言語使用の外的コンテクストを参照して領域の設定)+タスク遂行に必要な表現・語彙・文型を選ぶ
Ⅲ 年間計画表作成
Ⅳ 教案の作成→教室活動へ
授業
・授業テーマはタスク、到達目標がCan-doリスト
Ⅰタスクの決定 : ハイキングの企画
Ⅱタスク実現のための言語活動を挙げる : 場所を探す、日時の決定、友達、先生をさそう
Ⅲ そのうちのいくつかを授業目標とする
Ⅳ その目標に適合した内容・教材・活動を教案として準備する
そして評価は ?
「何ができる?」と「どのようにできる?」
参考文献
· PUREN Christian (2013) « De l’approche communicative à la perspective actionnelle, ou de l’interaction à la co-action », フランス日本語教師会便り69号 www.christianpuren.com
· ヨーロッパ教師会(2005) 『ヨーロッパ日本語教育とCommon European Framework of Reference for Languages』, 国際交流基金
· 吉島茂、大橋理枝(他)(2004)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠』、朝日出版
参考サイト
· 外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ce/ (参照2013-7-12)
· 欧州評議会 http://hub.coe.int/fr/ (参照2013-7-12)
· 欧州連合 http://europa.eu/index_fr.htm (参照2013-7-12)
· 国際交流基金 http://www.jpf.go.jp/j/japanese/report/24.html (参照2013-7-15)
· 日本語ポートフォリオ(青木直子)
http://www.let.osaka-u.ac.jp/~naoko/jlp/support.html
(参照2013-7-17)