メドックマラソン Le Marathon du Médoc

メドックマラソン」とは、フランスの赤ワインで有名なボルドーのメドック地区で、毎年9月の第2土曜日(今年は8日)に開催されるフルマラソンです。時期的にはぶどうの収穫直前の時期に重なります。このマラソンは、美しいシャトー(城)とかぶどう畑の中に設定された42.195 kmの1周コースを走ります。このマラソンが他のマラソンと違っているのは、途中、22箇所のシャトーに休憩所(エイドステーション)が設けられているのですけれども、そこでは水ではなくワインが振舞われるということです。さらにコースの38km地点(ラスト5km地点)以降からは、生ハムとか生牡蠣とかサイコロステーキとかアイスクリームなどの食事も出てきます。しかも、ランナーは全員が思い思いの仮装をして参加します。まさに、各国から集まるランナーたちのための世界最長のコスプレパーティー会場なのです。今年で28回目を迎え、今年は世界40カ国から8500人もの参加者がありました。日本人のランナーやワイン愛好家の方たちにも徐々に知られるようになって、今年は450人の日本人ランナーの方が参加されました。これは1番フランス、2番イギリスに次ぐ参加者数だそうです。

オープニングのセレモニーが終わると一斉にスタートします。まだ1kmも走らないうちに最初の休憩所があって、コップを手に取って水かと思って飲むとそれがすでに白ワインなのです。皆仮装をしていて、今年の仮装のテーマは「歴史」ということでしたので、私がインターネットのサイトで見た限りでも、ローマ時代の歩兵やエジプトのファラオや中世の騎士などをイメージしたコスチュームを身につけたランナーで溢れていました。その他にもヒョウやシマウマなどの着ぐるみを着たランナーや、日本人と思われる方で全身赤鬼、青鬼のペイントをしたランナーなども見られました。しかもマラソンコースのあちらこちらではバンドが生演奏をしています。ちょっと走ると、またかとばかりにワインが現れて、なかなか前に進みません。そのためにこのメドックマラソンには「世界で一番長いマラソン大会」というニックネームがつけられています。

ところで、皆さんも聞かれたことがあるかもしれませんが、ボルドーワインには「5大シャトー」という「第1級」の格付けを獲得した5つの銘柄があります。ラフット・ロートシルト、ラトゥール、ムートン・ロートシルト、マルゴー、オー・ブリオンがその5つです。このコース内のシャトーにはその「5大シャトー」のうちの3つ、すなわちラトゥール、ムートン・ロートシルト、オー・ブリオンが含まれていて、そういった非常に高額なワインも飲み放題です。そういったシャトーでは、休憩所と言えどもプラスチックのコップではなくてワイングラスでワインをしっかりと堪能させてくれます。ですので、ワイン好きにとっては、まさに鳥肌が立つような感動ものなのです。

極め付きは,先ほども申しましたように、38km地点(ラスト5km地点)から食事を楽しめるということです。まず生ハムを食べられるポイントがあって、次に生牡蠣を食べられるポイントがあって、その次にサイコロステーキ食べ放題のポイントがあって、最後にデザートのアイスクリームが食べられるポイントがあるというように、フルコースが用意されています。

日本であれば「ワインを飲みながら走るなんてとんでもない」と言われて絶対に許可されないようなイベントなのですけれども、ワイン王国のフランスではOKなわけです。ワインを飲みながら走って大丈夫なのかという疑問がわくかもしれませんが、ハアハアとアルコール分を吐きながら走るのでそんなに酔わないのだそうです。ゴールでは、完走賞として完走メダルとオリジナルバックとオリジナルの木箱に入ったボルドー産ワインがもらえます。さらに、女性ランナーには一輪の赤いバラが手渡されます。制限時間は一応6時間30分なっていますが、心の広いフランスの人たちはその制限時間を過ぎても、当然のようにその完走賞をくれるのだそうです。そして、万が一優勝してしまったら、自分の体重分のワインをお持ち帰りできるそうです。

こういう「ぶっ飛んだ」イベントを皆で楽しくあっさりやってしまうところを見ると、フランスはやはり人生を楽しむことにかけては天才だなということを強く感じます。

日本でも、このメドックマラソンに参加するツアーを企画している旅行会社があります。マラソン大会へのエントリー代と旅費と現地(ボルドー)でのホテル代の他に、パリへの1泊のツアー代がついて、今年は5泊6日で229,000円だったそうです。

私はスポーツとは縁遠い人間なのですが、このマラソンならちょっと参加してみたいという気になりました。マラソンといっても実は真面目に走らなくても全然大丈夫なようですし、6時間30分もあれば普通に歩いても42kmくらいは何とかなりそうですので。仮装しなければならないのが少し抵抗ありますけれども、例えばハワイのホノルルマラソンなどに比べれば、まだまだ日本での知名度は低いので、知り合いは誰も見ていないのではないかと思います。

スポーツの秋と食欲の秋にふさわしい話題をお届けしました。(2012.10.01-2012.10.05)

カテゴリー: フランコフォニーの手帖 Les cahiers de la Francophonie (par フランス語科教員) タグ: , パーマリンク