2012年ノーベル平和賞はEUに Le prix Nobel de la Paix décerné à l’Union européenne

ノルウェーのノーベル賞委員会は、10月12日(金)に、2012年のノーベル平和賞をEU (ヨーロッパ連合)に授与すると発表しました。受賞理由についてノルウェー・ノーベル賞委員会のヤーグラン委員長は「60年以上にわたって(ヨーロッパにおける)平和と和解、民主主義、人権に貢献してきた」と語っておられます。

皆さんも高等学校の世界史で学ばれたかと思いますが、過去を振り返れば、ヨーロッパは中世以来絶えず戦争の舞台となってきました。特にフランスとドイツは歴史的な宿敵として、古くはブルボン朝対ハプスブルク家の対立があり、その後も19世紀後半から20世紀前半にかけて3回も戦っています。第二次世界大戦後になって、そういった悲惨な過去への反省から、1952年にベネルクス3国、フランス、旧西ドイツ、イタリアの間でECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体)が作られました。これは、それまで石炭や鉄鋼などの戦略資源がしばしば国同士を敵対させる原因となってきたことから、これらを共同で管理する市場を設けようとしたもので、これが現在のEUの前身です。その後、1973年にデンマーク、アイルランド、イギリスがEUに加盟し、1980年代にはギリシャ、スペイン、ポルトガルが加盟しました。その後も加盟国は増え続け、さらにベルリンの壁が崩壊して東西冷戦が事実上終結すると、東ヨーロッパの国々も加わるようになりました。現在加盟国は27か国にまで増え、通貨に共通のユーロを使う加盟国も17か国にのぼります。来年にはクロアチアの加盟も決まっています。

ただ、近年ではEU内部での経済的な軋みが次第にあらわになってきました。今日のユーロ危機は、もともと財政状態が全く異なる国々に単一の通貨を当てはめようとしたことに無理が生じたために起こったものです。特に財政破綻の瀬戸際にあるギリシャでは、2010年春以来財政的な支援をユーロ圏各国にたびたび要請しているにもかかわらず、財政再建のめどは立っておらず、失業率は25%にも及んでいます。 一方そうしたギリシャに財政支援を行う国々の側にも不満が生まれ、ドイツでは「底の抜けた樽に金を投げるのは無責任だ」というような非難が繰り返されています。今回のEUの平和賞の受賞は、このユーロ危機下で加盟国が反目しあうことへの警告という側面もあるようです。過去においても、戦争が起こる背景には必ず経済的な問題が存在していますので、EUがこれからも積極的に活動をし続けない限り、この平和賞の意味も失われるということでしょう。

そんな中での今回の受賞にはヨーロッパ各国でも賛否両論がありました。これまでEUを牽引してきたフランスとドイツをはじめ、加盟国の大半の首脳らは受賞を歓迎しましたが、平和賞のおひざ元であるノルウェーでは、冒頭の委員長の発言とは裏腹に、国民の間には「(この賞は)政治的な賞」だという批判が生じています。ノルウェーは国民がこれまで一貫してEUに懐疑的で、2度の国民投票で否決された結果今日でもEUに加盟していないのです。また、ユーロ危機の震源のギリシャでも不満が渦巻いており、「EUの受賞は平和賞の品位を落とした」という声までも上がっています。

私は今年の5月に海外出張でフランスのアルザス地方の中心都市であるストラスブールに行ってまいりました。この地方はドーデの『最後の授業』の舞台にもなり、古くからフランスとドイツの間で戦争が起こるたびに、所有権をめぐって両国の間を幾度も揺れ動いてきた場所です。このような歴史を踏まえ、「ヨーロッパの平和は仏独の和解から」という考えのもと、1949年にヨーロッパ評議会がストラスブールに置かれ、私もEUの旗がたなびくその建物を見てきました。あの美しく優しい町がこれ以上軍靴で踏み荒らされることなく、いつまでも今のままであってほしいと願うばかりです。(2012.10.15-2012.10.19)

カテゴリー: フランコフォニーの手帖 Les cahiers de la Francophonie (par フランス語科教員) タグ: , パーマリンク